生きるという事は何故にこのような苦難に満ちているのか。
とりわけ、真摯に「正しさ」を追い求める者には。
過ちが権力をもたらし、真実が嘲笑されるのが、我々の「現実」だ。
この世の中を席巻する正当化された狂気の猛威を目の当たりにすると、
人間という生き物の存在理由を根底から疑いたくなる。
本当に人間はこの宇宙に存在すべき生命体なのか。
何かの過ちで進化してしまった、悪しき畸形の害獣ではないのか。
しかし私は時折、この愚かなる生き物の中に崇高さを発見する。
そしてその崇高さの影に、永遠と無限をも見出す。
この醜悪なる生き物の中に、世界のすべてが潜んでいる。
しかもその者達は、自然が手を出せぬ「不在」さえも知っている…
だからこそ、私はこの愚かなる生命を徹底的に肯定する。
その現実以上に、その可能性…潜在性を。
嫌悪の果てに訪れる絶大なる愛情…
それがこの映画が生み出す力だ。
この力の流れが、
人々の魂の深淵に秘められた、静かなる大海にそそぎ、
豊饒なる光とならんことを切に願う。
槌橋雅博
|